２０００００hit記念連載小説
ずっと、ずっと．．．〜番外編〜 ＜和兄と彼女２＞
１
「せんせ、和せんせ、受かったよ！○○高校、受かったんだよ！！」
公立高校ながら地元ではそこそこレベルの高い高校をあたしは受験した。安全圏内とはいえはじめての受験、受かるまでは怖かったんだから．．．
忙しい両親の代わりに、あたしの受験をサポートしてくれた家庭教師の和せんせ。
『そっか、よかったな！！今晩お祝いしような。おふくろさんは？』
電話の向こうのせんせの声はあったかい。心までほわほわしてくる。だから寂しくなんかないんだ、ママが祝ってくれなくっても．．．
「ん、今日も遅くなるって．．．」
ママはお友達とはじめたショップが調子よくって、ますます帰りが遅くなった。でもたまに休みの日には一緒にご飯たべたり、ショッピングに行ったりするようになった。けれど単身赴任してるパパとはもうだめみたいで、あたしが高校に入ったら、パパとママは離婚するらしい。あたしも連絡もらったけどパパの彼女さんに赤ちゃんが出来たみたいなんだ。ママもパパと話し合って納得したらしいの。最近は食べ物の味もわかりだしたみたいで、いっぱい笑ってくれるんだ。それでも料理をする気にはなれないみたいで、相変わらずあたしが作ってる。時々家庭教師の和せんせが作ってくれたりもするんだけどね。
へへ、小畠 和明せんせ、大学の３年生なんだけど、一応あたしの彼氏だったりする。あたしは志摩 真名海、15歳の中学3年生。さっきまでは受験生だったんだけど、合格した今は、春から高校生！それも地元のそこそこのレベルの公立校に受かったばっかり。実はこの高校、和先生の母校なんだって！
和せんせも柔道の大会があったりして大変だったのに、あたしの受験勉強にもいやな顔ひとつせずに付き合ってくれた。せんせはそんな優しい人。あたしがどん底の生活を送ってたときもそっと引き上げてくれた。自分でやることをひとつずつ教えてくれた。柔道やってるでっかいからだつきに似合わずかわいらしい顔してるしその中身はもっと優しい。去年の夏告白して、やっと彼女らしきものにしてもらったんだけど、それでもあたしは未だに子供扱い。２１歳のせんせからしたら１５のあたしなんて、ほんとに子供なんだろうなぁ。ほんとに、たまーに、キスしてくれるくらいで、それ以上は全然ないし．．．あたし、せんせだったらいつでもいいのになぁ。まあ、さっきまで受験生だったんだからしょうがないけどね。
「こうやってせんせに教えてもらうのもこれで最後なのかなぁ。」
受験の前日、午前中を使って最後の勉強をしてたときにふとそうつぶやいた。いまさら何をするでもなく、ただ落ち着かないからせんせにこうして来てもらってるだけなんだけどね。うちに来てるときはたいていご飯を作ってくれたりといろいろしてくれるのでとってもうれしいんだ。それだけじゃないかな？落ち着くの、一人じゃなくって、誰かがそばにいてくれて、ずっと見つめられてるのが．．．時々、その視線がとても苦しいものになるときがあるけど、そんなときはせんせがあたしをぎゅって抱きしめてキスをする時。できるだけ勉強中はしないって決めてあるから、ご飯食べ終わったあとの帰る前だとかなんだけどね。たまに、ほんとにたまにデートしたときは帰り際に離してもらえなくなる時もある．．．。せんせは何にもしないんだけど、ただぎゅってそのままずっと．．．苦しくて身をよじるまでずっと．．．
「そうだな、高校入っても続けられればいいんだけど、俺も来年教員試験受けたりするからその準備でまともに見てやれないと思うんだ。だから、家庭教師じゃなく、彼氏として会ったり、勉強を見たりなら出来ると思うんだけどな？その場合は真名海のおふくろさんにちゃんと言わなきゃな。」
「気が付いてると思うよ、たぶん。」
「それでも、けじめっていうやつだよ。」
「じゃあ、明日からせんせが来る時はあたしに会いに来てくれるってこと？」
「そうだよ。時間作って、真名海に会いにくるから待ってろよな。」
「うん！」
あたしは、せんせのその言葉のおかげで、すっかりリラックスして試験に望めた。
合格発表の夜、テーブルの上にはあたしの大好きなメニューが並んでる。ふわとろ卵のオムライス、スープとサラダとお祝いの何種類かのケーキとケンタッキーのチキンは買ってきたものだけど、せんせが急いで用意してくれたもの。
「おめでとう、真名海。春からは高校生か．．．早いもんだな。３年たったんだ。」
和せんせは感慨深げにノンアルコールの乾杯用のシャンパンをじっとみてそういったあと一気にグラスを飲み干した。
あっという間にテーブルの上のお皿は空になっていく。せんせは今日も練習でおなかすいてたみたい。食後にせんせにはコーヒー、あたしはミルクティーを入れてそれぞれケーキを一個ずつ食べた。せんせはレアチーズケーキ、あたしはチェリータルト。ケーキを頬張りながらあたしは自分の誕生日を思い浮かべていた。
「ね、せんせ。あたし、７月には１６になるよ。」
あたしの誕生日は７月２１日夏休みに入ってすぐなんだよね。
「そ、そっか．．．」
「せんせ？１６になったらいいんだよね？」
「な、何がだ？」
ちょっとうろたえ気味のせんせ。
「１６になったら結婚だって出来るし、義務教育だって終わるから、だから．．．」
「ま、真名海．．．」
「あたしせんせの本物の彼女になりたい。今まで見たいにお子様な付き合いじゃなく、本当の恋人同士になりたい．．．」
「お、おい．．．」
「そう決めてるから、ね、和せんせ。せんせも高校生になったらって言ったよ？」
「それは、あの時はずいぶん先のように思えたからでだな、でもまだまだ、その、だめだよ、真名海いじめるなよ、俺を。」
完全にしどろもどろになっちゃってるよ？おかしいなぁ、あたし彼女にしてもらったときにそう約束したはずなのに．．．
「じゃあ、卒業祝いにキスして、大人のキスだよ？ね、あとは１６になるまで待つから。」
あたしはせんせの座ってるところまで行くとちょんとせんせの片ひざの上に乗っかった。せんせはデザートがまだなのにとか言ってる。
「あたしがデザートじゃだめ？」
せんせ首に両腕を回してそっと顔を近づける。
「これ以上のデザートはないだろうけどな．．．」
和せんせの顔がもっと近づく。あたしはそっと目を閉じて唇が重なるのを待った。せんせの唇はあたしの瞼や額、頬、鼻のてっぺん、顎といろんなところを一周してようやく唇にたどり着いた。瑞希ちゃんのお姉ちゃんに聞いたんだけどキスのとき口を閉じてたら大人のキスは出来ないんだって。だからあたしはゆっくりと唇を緩めた。上唇と下唇を交互に挟んだりしてキスは続く。せんせの舌先があたしの唇をなぞる。あたしはそっと自分の舌を差し出す。せんせは一瞬驚いたみたいだけど、しばらくするとあたしの舌先をせんせの舌で突っつき始めた。追いかけっこがはじまる。せんせの舌が追いかけてきて、あたしに触れると逃げる。あたしが追いかけるとまたせんせの舌が絡み付いてくる。そのままだと息が出来なくなるので必死で鼻で息をする。、
「んっ、ふっ．．．んっん．．．」
あたしの身体は軽々と持ち上げられるかのようにせんせに張り付いている。きつく抱きしめられて合わさったところから和せんせの熱が伝わってくる。あたしよりもずっと大きなその身体にぶら下がるほどしかない私の細い体。去年よりも背も伸びたし、胸だって前よりはちょっとは大きくなったと思う。けれどせんせの隣にいるとまだまだお子ちゃまに見えてしまう。
「うっん、はぁ．．．ふぁ．．．」
あたしの身体から力が抜ける頃。せんせの唇は離れていった。
「せ、んせ．．．」
きっとあたし今ぼうっとした顔なんだろうな。あたしはかすれた声で先生を呼んだ。
「真名海、卒業おめでとう。」
「ありがと．．．」
先生の声も掠れてるよ。あたしはそっと膝から降ろされた。
「今日はもう遅いから、帰るよ。」
「どうして？もうしばらく一緒にいて．．．」
「いや、今日は帰るよ。後片付け手伝えなくてごめんな。」
せんせはかばんを持つとさっさと帰ろうとしていた。
「まって、せんせ、あたしのキス下手だった？だから嫌になったの？」
「えっ？」
あたしはせんせの前を通せんぼするようにドアの前に立った。
「やっぱりあたしじゃ子供過ぎる？それとももう今日で終わりなの？」
「何言い出すんだよ？真名海。」
「だって瑞希ちゃんのお姉ちゃんが言うんだもん。きっと高校受験終わるまでの見せかけの恋愛だって。受かったらもうおしまいじゃないって。あたしそんなことないって信じてる。でもキスが終わったらすぐに帰ろうとするから、あたし．．．えぐっ、ふえっ、えっ．．．」
「ちがう、ちがうんだ、その反対なんだ！」
「うっ？」
「はぁ．．．」
辛そうに眉をしかめた先生の顔、両肩をつかまれてあたしの顔の高さまで降りてきた先生が苦しそうにため息を吐いた。
「このままここにいたら、俺はきっと真名海を自分の物にしてしまう。今日、いや今月いっぱいは真名海の家庭教師なんだからな。けじめつけないといけないだろ？俺も今日は浮かれてたんだ。真名海の合格、それと家庭教師卒業したらって考えただけでもうどうしようもなくなるほどうれしくて、お願いだから、もう限界だから帰らせてくれ！さっきのキスだって．．．断ればよかったって後悔してる。お祝いのキスなんかじゃなかっただろ？あれは、俺が真名海を欲しがってるキスだった．．．」
「せんせ！」
あたしはせんせの首っ丈に飛びついた。
「どうしてダメって言うの？あたしは今でもいい！」
「だめだ！真名海はまだわかってない。こういうことは軽々しくするもんじゃない。そりゃ、愛し合うことは悪いことじゃない。けれども赤ちゃんを作る行為でもあるんだ。そのリスクがある分考えなきゃいけないんだぞ。もしもできたらって．．．だからイロイロ考えて決めたんだ。１６歳になるまでは手ださないって。親父さんや、おふくろさんを知ってる分、めったな真似は出来ない。わかってくれるか？」
「ほんとに嫌いじゃない？」
「嫌いなもんか！俺自身信じられないくらい真名海に参ってるよ。４月から家庭教師じゃなく一人の男として会いに来れるのがどれだけうれしいか．．．だから．．．ほんとにやばいんだって．．．」
大きな肩でぜいぜいと息をしている。もしかしなくても、興奮してる？
「せんせ、１６になったら、きっとだよ？」
大きく頷いてくれるせんせにちゅって頬にキスした。
「約束のキスだよ。んんっ？」
そういって微笑んだあたしの唇は再びふさがれた。
「ん、ん、んっ．．．」
「ったく、馬鹿野郎、挑発するなよ．．．帰れなくなるだろ？」
掠れた声のせんせはやっぱりいいな。このままでもかまわないって気になっちゃう。
「せんせは我慢すればいいよ。あたしは、今でも構わないんだもん。」
「真名海っ！」
あたしはくすくす笑ってせんせに抱きついた。その後せんせが鉄の理性をもって帰宅したのはもうしばらくしてからだった。